「20世紀の十大ピアニスト」

<p>「20世紀の十大ピアニスト」(中川右介著)という本を読みました。ラフマニノフ、コルトー、シュナーベル、バックハウス、ルービンシュタイン、アラウ、ホロヴィッツ、ショスタコーヴィチ、リヒテル、グールドという10人の生涯を描いています。</p> <p>いきなりクレームをつけるようですが、このピアニストの人選に疑問を持つ人は少なくないのではないでしょうか。ショスタコーヴィチがピアノの名手だったことは知られていますが、ピアニストとしての実績や影響力から判断すればゼルキンかケンプを入れるべきでしょう。選考基準に「人生がドラマチックである」(筆者)ことを優先した結果ですが、それがピアノの演奏能力に結びつくとは思えないし、もし話の面白さをあくまで追求したいなら、タイトルはせめて「20世紀の名ピアニストたち」とすべきでしょう。</p> <p>それはともかく、この本は名ピアニストたちの評伝としては非常に読み応えがあります。なかでもラフマニノフ、ホロヴィッツ、ルービンシュタインの3人については、それぞれの生涯が波乱に満ちているうえに、様々な局面で互いに影響しあうことで、思いがけないドラマが展開します。</p> <p>親子ほど年代の離れたラフマニノフとホロヴィッツは終生いい関係でしたが、中間世代のルービンシュタインとホロヴィッツは微妙な関係でした。初めは兄弟のように慕い合う関係でしたが、ホロヴィッツがルービンシュタイン夫妻との昼食の約束をすっぽかしたことがきっかけで、一気に絶好状態になり、それが20年続きます。結局、「ホロヴィッツが文書で謝るまでは許さない」という信念を貫いたのですから、一見好人物のルービンシュタインも相当な硬骨漢といえます。</p> <p>私が感銘を受けたのは、ホロヴィッツと別れた後に、ルービンシュタインがそれまでの練習嫌いを返上して練習に打ち込むようになったというエピソードです。もともと享楽的で天才肌だったのが、ホロヴィッツへの対抗心から音楽に対する態度を百八十度転換し、それが演奏にもいい方向に影響し始めたのです。それは40代になってからのことです。</p> <p>ルービンシュタインが80代になってもなお矍鑠として演奏活動を展開していたのを覚えていますが、中年になってからの精進がその要因の一つであったことは確かでしょう。ホロヴィッツとの確執も、結果的には怪我の功名だったと言えるかもしれません。</p> <p>もう一つ印象に残ったのは、ホロヴィッツの「ピアニストは世界市民である。ショパンを弾けば善良なポーランド人に、チャイコフスキーを弾けば善良なロシア人に、ドビュッシーを弾けば善良なフランス人に、ベートーヴェンを弾けば善良なドイツ人に、なれる」という言葉です。これはピアノに限らず、どんな楽器にも、もちろんオーケストラにも当てはまるでしょう。</p> <p>最後に、筆者は大ピアニストの三大条件として、①父親が若くして亡くなるか破産②強い意志の母親がいて息子を鍛えぬく③姉がいてピアノを習い、かつあまり上手ではない、を挙げています。特に③はなるほど、と思わせます。</p>